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育男あて 一・二十五 [勝野睦人書簡集]




   果 実                   R・M・リルケ

  それは土の中から果実をめがけて 高く 高くのぼっていった

  そして静かな幹のなかで沈黙し

  明るい花のなかでは炎となり

  それからあらためてまた沈黙した



  それは久しい夏の間

  夜となく 昼となく 働いていた樹のなかで 実を結び

  関心にみちた空間に向って

  殺到する未来としての自覚をもっていた



  けれども いま 円熟する橢円の果実のなかで

  その豊かになった平静を誇るとき

  それは自らを放棄して また たち帰っていくのだ

  果皮(かわ)の内側で 自分の中心に向って



 最近みつけたリルケの詩です。未発表詩集の内におさめられてお

ります。一九二四年の作。「悲歌」が完成した後のものです。



 僕は文句なし「オ手アゲ」ですが、あなたはいかが?日曜日に

感想をきかせて下さい。

 僕が淀縄さんの詩にああいうことをいうのも、こんな詩を読んで

いるからです。「描写する」のでもなく「歌う」のでもない。これ

はいわば「つみかさねてゆく」詩です。



 でもリルケの詩をささえているのは、やっぱりドイツの自然です

ね。フォーゲラーの縄を御存知ですか? 彼ん好んでかいたあの瘠

せた白樺、とおい城塞、こんもりとしげった大きな森が、リルケの

詩の背景になっているようです。それからベックリンのかいたあの

海や空も、シュトルムの小説の中にでてくる荒廃した庭も、彼の詩

と意外に関係がふかいーーそんな気がします。それらには、浪漫

的、抒情的といった言葉ではかたづけられないものが、かくされて

いるような気がするのです。デューラーの描いたドイツ女の顔に

は、誰かに見据えられているような表情があります。ドイツでは山

も河もみんな、あんな表情をしているのではないかーー僕の勝手

な空想です。では

                       ムツト

  一・二十五

 育男様

















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