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岡田芳郎あて  一・二八  (その2) [勝野睦人書簡集]





 僕のことばかり書いて恐縮です。名古屋のその後のご様子お知ら

せください。

 河野さんとシャンソンを合作されたお話、ききました。あなたに

はシュヴァリエのうたうような chanson fantaisiste を作る資格が

あるのかもしれない。無論この場合の fantaisiste は、「幻想的」

の意味ではなく、「気まぐれな」「奇想天外な」意味を指すわけで

すが。

 おしまいに、リルケの詩をひとつ書き写しておきます。あるいは

御存知かもしれませんが。(一九二四年の作、悲歌完成後の作品で

す)好きな詩は解説することがむずかしいので、かえってひとに見

せたくなります。見せて「つまらない」と言われてもさびしいけれ

ど、「いい詩だ」といわれてもやはりさびしい。「僕だけのリルケ

だ」というおかしな気持が、どこかにひそんでいるからでしょう。

だからそういう気持をぶちこわすためにも……。ご感想をおきかせ

ください。



    果 実                   R・M・リルケ


  それは土の中から果実をめがけて 高く 高くのぼっていった

  そして静かな幹のなかで沈黙し

  明るい花のなかでは炎となり

  それからあらためてまた沈黙した



  それは久しい夏の間

  夜となく 昼となく 働いていた樹のなかで 実を結び

  関心にみちた空間に向って

  殺到する未来としての自覚をもっていた



  けれども いま 円熟する橢円の果実のなかで

  その豊かになった平静を誇るとき

  それは自らを放棄して また たち帰っていくのだ

  果皮(かわ)の内側で 自分の中心に向って



 あ、それにもうひとつ、やはりリルケの詩の中の言葉で、竹下氏

がスゴク感激していた一行があります。

  讃め歌の国の中をのみ許されて嘆きはあるく

彼がモーツァルトを語りはじめた時、僕がもち出してきたのです。

もっとも、少しまちがえて言ってしまったかもしれない……。とに

かく大好きな一行です。では また

                            睦人

 一・二八

岡田芳郎様











 雑誌では、詩 果実のところ、リケルになっていましたのでリルケに直しました。








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