久保田広志あて 32・2・28 [勝野睦人書簡集]
(久保田広志あて)
いま下宿のマダムから、君の来てくれたことを聞いたところだ。
君はまだ、御徒町の近所にいるかもしれない。だって、君がここを
出てから、五分と過ぎてはいないのだもの。まったく運が悪かった
なあ。
まあそれは致し方なしとして、僕の散らかし放題の部屋を見られ
たのには弱った。毎日あんな生活をしていると思われそうだ。何も
弁解することはないけれど、今日のはやや「特別」なのだ。あすま
でに書きあげなければならないレポートがあるので、徹夜で本棚を
ひっかきまわしていた矢先。まずいところを見られてしまった。だ
が(あれはあれというのかな、これというのかな……君の立場にた
てばあれだな)僕の精神生活の一面でもあるのだ。そしてそれは、
決して「怠惰」の一面ではない。これは君もわかってくれると思
う。しかし俗な連中はそうはとらない。だから(そんなことは君は
しないと思うが)ひとには口外しないでくれ給え。特に同郷の奴ら
にはね。じゃあ又 郷里で会おう。
32・2・28
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