ああ 或る日 [勝野睦人遺稿詩集]
ああ 或る日
ああ 或る日
あなたはついに気づいたのだ
わたしの「言葉」が束であるのに
一本の ほそい黒糸が
それをかたくかたく結んでいるのに
しろい糸切歯を剥(む)きだすと
むぞうさに
あなたは糸を噛みきった
「言葉」は当然風に呑まれた
風は むずかしい議論のように
ひとつところを旋回しながら
一言ひとこと配っていった
通りかかる別の風に……
<今日ハ>
<オハヨウ>
<アナタヲアイシテイマス>
おしまいに
「言葉」は枯葉と混ざってしまった
もう誰にだって見分けはつかない
わたしから あなたへ通じる石畳のうえに
うずたかくそれらは積っている
それに ああ ごらんなさい
一人の農夫が たんねんに
木靴のさきで掻きわけていく……
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