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マコチャン [勝野睦人遺稿詩集]





   マコチャン


「マコチャン」トヨンデイタ

ソノコハベティサンノヨウナカオダッタ

ワタシトナカガヨカッタ

ドーロニハボクデキューピーヲカイテアソンダ

チョーナイニトラホームノコゾーガヒトリイタ

ソノコゾーガアルヒマコチャンヲナグッタ

マコチャンハカオヲオオイモセズニイエヘトビコンデ

シバラクデテコナカッタ












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錆びた恋歌 [勝野睦人遺稿詩集]





   錆びた恋歌


 君と僕とで交しあった、ほら、あの小さな「恋」のかけら――あ

れは、今もこうして、幾分だぶつく僕のズボンの、ポケットの底に

転がっている。

 使いふるしたニッケルの小銭が、青錆びた真鍮のメタルのように、

触わると幾分ひんやりするし、真中に、穴のあいてるのもよくわか

る――けれども、いよいよ、



 向う見ずな僕の人生が、有余る幸福を使い果たして、無一文となり

果てた折、

 寒空をからっ風のように吹きすぎる。一筋の「愛」を捕えあぐね

て、僕の心がかじかんでいる折――ふしょうぶしょう、

 そっと、こいつを、握りしめてみるよりほか、すべもないのだ。



 ズボンがささくれてしまったら、(もう、君は罌(かが)ってくれる筈も

ないから)チャリンと鳴って、こいつは地面に滑り落ちよう。

 そうして、行きずりの男の掌で、表がでるかあるいは…….心許な

い僕の記憶が、あわててごそごそ探る頃には、ポケットの底は、塵

紙の山とそれから、自転車の鍵ばかり……












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夕暮 [勝野睦人遺稿詩集]




   夕暮


 とっくのもう昔に、君も僕も忘れちゃった映画の、煙草の脂臭い

フィルムの色で、夕闇は木々の梢を染め終えた。(意地張りの楓も

従順だったし、茱萸(ぐみ)の子も案外素直だった)そこで、一服している

雲がある。彼奴(あいつ)は今朝太平洋を渡って来た、酒と放浪癖の強い奴だ。



何しろ連日の日照り続きで、ごらん、茅蜩が、神経衰弱に罹った。

KIKIKIと歯軋りながら(まるでコップの底でも磨合わせるよ

うに)、パラフィンの羽根を揉みしだいている。

 雨戸の陰には蜘蛛の巣が、スタンドの笠ほどもある、巨大な漏斗(ロート)

をぶら下げてーーあれでね、お月様を漉(こ)す気なんだ。悪事が露見す

るといけないから。

 だがもうそろそろ、ペンキ屋達の訪問時刻ーー酸漿(ほおずき)を乗せた露台

の下に、先刻(さっき)から蛾蝶のように群がっていた、あの「闇」達の舞立

つ時刻だ、風鈴がカスタネットを打つ宵は、僕等のアパートの大屋

根だけ、特別にセルリアン・ブルーを引いてくれるよ。

 そうすると僕よりお母様が夢中で、金魚の尻尾のようにひらひら

する、わざとだぶついたパジャマを召され、家鴨のサンダルを履い

て出てこられる。

 お隣の病人の窓縁(まどべり)から、火星人(マーシャン)の眼に星を並べる。

 ーー夕暮は、僕等の生活の幕切れ時だ。



 そうやって、君は、じっとしてい給え。

(夜風が新調のレースをすっかり汚してしまうまで)そうやって、

僕には内証(ないしょ)のことを考えて給え……












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どこかのカフェーの隅っこで [勝野睦人遺稿詩集]





   どこかのカフェーの隅っこで

     ーー又は“カップとソーサー”ーー


 涙を湛(たた)えたカップの、君の瞳(め)も、僕の瞳も小さな受皿(ソーサー)に過ぎな

い。



 そんなに大きく見開いて、君の瞳が、どんなに僕に近寄っても、

僕の瞳と、君の瞳と、すっかり重なり合ったとしても……



受皿(ソーサー)の底と底とが擦れ合って、KIKIKI鳴るだけだ。

ーー止(よ)し給え、粗相したふりをして、わざとテーブルをゆさぶっ

ってこの僕の為に、受皿(ソーサー)を汚して見せてくれるのは……



 お互のカップの口には、見えないハンケチさえ被せてあるのにー

ーその中に、まるで舶来のコーヒか密造酒(ムーンシャイン)でも忍ばせてあるよう

に……

  ×         ×

 いつの日だろうーー受皿(ソーサー)を離れたカップとカップが、僕等の頭上

で触れ合うのは……


                                    ’ 
 (どこかのカフェーの隅っこで、そうやって、君と、僕とが、テ

レ臭そうに乾杯するのは……)



 ーー今朝も又、僕の言葉が一雫、僕の知らない波紋となって、君

のカップに広がって行く……












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 [勝野睦人遺稿詩集]





   冬


 ニッケル銭の月が、ついさっき、欅(けやき)のどこか、遠い梢に凍りつき、

もう下りてこれなくなった。国境を越え派遣された、入念な凩(こがらし)の一

群は、森や林を、一々点検して歩く。茱萸(ぐみ)の子の、凍(こご)えきった指先

まで、粉雪のチョークで印をつける。(あれが、冬のトレイド・マ

ークだって誰かがいってた)



 昨日(きのう)の夕焼けは、山の波に、黄なくしみついただけだった。一昨日(おととい)

の、久しぶりの星夜は、まるで電球のコップのかけらを、空一面散

らかしたみたいだった。君と僕との幸福も、こうやって、小さな屋

根の下ーー囲炉(いろり)のぐるりに嵌込まれたっきりだ。四、五冊の、手垢

に萎えた童話の本と茹(ゆで)卵と、宿題と一緒に……



 突然、思い返してはばたいては、またすぐ諦めてしまう焔の上に、

かわるがわる、そっと翳(かざ)してみせる、僕等の愛と、それから皹(ひび)だら

けの手……だが、もう、二人の会話は、すっかりすり切れてしまっ

た(丁度、着古したマントのように)君も、僕も、繕うすべもない

程……



 うす暗い、お互いの心の隅へ、ときおり、肌寒い沈黙が、隙間風

のように忍びこんでくるのを、僕等は、ただ、じっと見ているーー

深い、深い吐息と一緒に、まっ白な蒸気の輪を吹いて、思案に暮れ

た大人がふかす、あの、葉巻の真似なぞしてみせながら……












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わたくしはピアノの鍵盤です [勝野睦人遺稿詩集]





   わたくしはピアノの鍵盤(キイ)です

        ーー又は゜楽譜に添えて゜ーー


わたくしは

ピアノの鍵盤(キイ)です

ひっそりと 部屋隅の暗がりにならんだ

しろい パンセの羅列です

ときおりあなたの影がよりそい たわむれに

かきみだしてゆく 水平線です



とりどりの哀しみや悦びをそろえて

うなだれている 依怙地な沈黙ーー聴き耳を

そばだてている恐怖です

あなたはすべてを知りぬいておられる

わたしのどこに指を触れれば

小鳥が舞いたち グラスが倒れ

あなたの鴇(とき)色のリボンに涼風がのるのか……



わたくしの 夢や希望を

ひとつひとつたしかめながら

けれどももの憂げにかきまぜてしもう あなたの放心

しなやかな 両腕の あなたの懶惰



ーーしかしあなたは御存知でしょうか

わたくしの ところどころに潜んでいる

はみだした音色 鳴りひびかないこころ

そうして あなたの指先から

澪れおちてゆく わたくしの孤独を……












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音信 [勝野睦人遺稿詩集]




   音信


 蒸し暑い、いやなお天気続きだ。太陽は誰かのポケットに隠され

たっきり、今朝から一度も顔を見せない。洗い晒(ざら)しのアスファルト

の道に、霧雨が、ぶつぶつ小言を澪している。(ガラス戸にぼんや

り滲んで、おとなしく、耳を傾けているのは僕の影)



 あれから、君はずっと元気?ーーこうやって、ペンを取ってる机

の上に、絵はがきや、英語の辞書に雑(まざ)って、君と僕との憶い出は、

散らかしっぱなしにされたまんまだ。ところどころ、それに、落書

などしてある。(まるで、不要になったノートのように……)



 風が立って、ときおり捲(めく)って行く僕等の愛。けれどもわざと飛ば

してしまうあの日のページーーそのページの隅っこにさえ大きな、

インクのしみが出来てしまった……



 慎もう、剥げ落ちた心の壁に、二度ともう、君の写真を留めた

りするのはーーしきりなし、壁土が落ちて汚れるだけだ。テーブル

や、ブック・エンドが……夢や、希望や、人生が……



 やっと見つけた屋根裏部屋の、小さな椅子のクッションに凭れて、

僕は今、静かに郷愁に明りを点す。そうして、ふと考えるーーもう

いい加減、僕の記憶を整頓しようと、僕の未来を新調しようと……















   
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洗濯物のうた [勝野睦人遺稿詩集]



   洗濯物のうた


そそうした 子供の小便のように

貧困がきいろくしみついている きみらのくらしよ

物干竿はすべをうしない きみらのくらしの舳先(へっさき)から

けさもかなしみの旗をかかげる かかげたもののふるだけの

気力もないびらんとしたびんぼうの紋章……



習いはじめの小学生の あてどなくさぐっていくabcd……くっ

つきすぎたり かしいだり ちぎれそうになったりしながらとりと

めもなくつづっていくefg………それがきみらの生存の 忠実

な筆記だ



  ずろーす しゃつ ずろーす しゃつ ぱんつぱんつぱんつ

  ずろーす しゃつ ずろーす しゃつ ぱんつぱんつぱんつ



だれにひけらそうとするでもない

こうして薄日にかざしては

色褪せたみずからのしあわせの数を

ふしょうぶしょう

たしかめてみるのだ















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AVRIL [勝野睦人遺稿詩集]




   AVRIL


 春が来て、忘れていた太陽がポケットから出て来た。僕はいっさ

い思い出してしまった……



 窓には、見覚えのある雲ばかりが浮かんだ。退屈して、僕は散歩

にでた。けれども、どの坂道を登りつめても、たずねた家家しか見

あたらなかった。顔みしりの子供たちばかりが石蹴りしていた。電

柱も、板塀も、野良犬のしっぽも、みな僕の記憶で汚れていた。



 僕は景色をみくびってしまった。やさしい算術の答案のように。

空は空、夕焼けは夕焼け、ポストはポスト、そうして僕たちの秘密

は、僕たちの秘密ーーだれに添削する根気があろう。ひとはただ、

黙って見まもってさえいればよいのだ。



 日が暮れると、あちらこちらで、街燈がわるい噂をともした。僕

はふと、あの娘の名前を立ち聞いたりした。すると、そんな時だけ

僕の心は、なにかのまちがいに気づくのだった。それは、三日月の

誤謬でもなかった。星たちの計算ちがいでもなかった。

 ただ、わけもなく、問いただしてみずにはいられなかった。あれ

はなに……あれは倉庫の白壁。それはなに……それは僕の孤独。



 余所見ばかりして歩いていたので、僕は、形而上学の脚に蹴つま

づいた。そうして、いっさい忘れてしまった。












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VIRGINITE [勝野睦人遺稿詩集]




   VIRGINITE


純潔は

あたしのしみ お母様が

あたしのシュミーズの上に いつか澪した涙

     あそこだけをあたしは恥じねばならない

     掌で わけもなく蓋いかくして



純潔は

あたしのひび 粗相して

お母様があたしを「おんな」に産んだ 傷痕(きずあと)

     あそこから

     いつかは割れるにきまっている

     脆い あたしの運命が



純潔は 

あたしの暗闇(くらがり) たわむれに

あなたがたが小石を投げこむ 祠

ガーベラの花束や いびつな愛を

     そのなかで

     いつも躓いてばかりいるのが あたし

     躓いても 転んでも

     声はころしていなければならない



<だが>

<あたしの一生がなんだろう>

<あたしは><汚されるために張り詰めている>

<キャンパスの布だ>



        ×        ×



純潔は 校庭の外れに

掃きのこされた一枚の落葉

     誰か来て

     いっそのことはやく拾い上げてくれればいい
















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