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ソネットⅡ [勝野睦人遺稿詩集]




   ソネットⅡ


アサッテノ 誕生日ノ晩ニ アナタガ結ブ

夢ヲサガシテヤロウト 浜辺ヘデタ

一冊ノ スケッチブックト タノシミト

芯ノヤワラカイ 鉛筆ナゾソロエテ



巨大ナパレットノ形ヲシテ 海ハ 欲望ヲ溶カシテイタ

棒キレヤ ワライヤ ショートパンツノ裾ヤ

アカルスギル海浜ホテルノ

flat roof ノ紅ヤ



ダレモ忘レテイタ ソコデハ

明日(アシタ)ヲ 昨日(キノウ)ヲ ソレカラソコニアソブコトサエ……

放心ガ コーヒー・フロートノ 泡ニトケ



雲ハ一人デ 落書キシテイタ

ーーソンナ タクサンノ忘却ノナカカラ

ワタシハ 昼ノ月ヲモラッテ帰ッタ












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モノローグ [勝野睦人遺稿詩集]




   モノローグ


たぶん

わたくしは ひとつの結び目なのです

たわむれに

運命の両端を

力一杯ひっぱった 神様

あなたのために

こんな依怙地な

わたくしが生れてしまいました



一度結んだわたくしを 

夜店で買った知恵の輪のように

するするほどいてしもうのも 神様

あなたでしょう



生きていることは

ひとつの<しこり>

喉元にからんだ痰唾のような

のみこむことができない かなしみ



神様

あなたの煙管(きせる)を詰まらせているのが

わたくしたちの<命>です












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グラスに注ごうとする私のこころは [勝野睦人遺稿詩集]




   グラスに注ごうとする私のこころは


グラスに注ごうとする私のこころは

けれども 食卓を濡らすばかりなのでした

おずおずと 水差しの口をつたって

奇形な言葉の雫をしたたらすばかりなのでした



グラスに注ごうとする私のこころは

それほど 波立っていたのでしょうか

食卓には あなたの夢が読みさしのまま

無造作に投げだされてあるのでしたが



そのうえに 言葉は インク液のように

あお黒いしみとなって広がるばかりなのでした



グラスを差しだしたあなたの手は

グラスを握りしめていたあなたの指は

それほど おののいていたのでしょうか

それとも 或る日の不幸から



ふと 私が未来をとりおとした折

水差しの口を欠いてしまったのでは……

    ×        ×

透明な あなたのリキュール・グラスに

ともあれこころは注ごうとしつづけ

そうして 食卓を濡らすばかりなのでした



ーーこころは 水平でなければ耐えられないので












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 [勝野睦人遺稿詩集]




   的


ひる

わたくしは

ひとつの的です

ポケットに

おどろきを小石のように

今朝も詰めこんでいられる 神さま

わたくしは ひねもすつけ狙われます

餓鬼大将のあなたのために



たとえば 夕焼けの露地裏で

吠えかかる 野良犬の声に怯えて ふと

あなたの影を踏んでしまうと

わたくしは背中から投げつけられます

ーーまだ一度も

拾いあげてみたこともなかった

あなたの孤独を

         ×

けれども よる

よるは 神さま

あなたが的です

わたくしは

力を籠めて投げかえします

電球のかけら インク・ボトゥルの栓

わたくしの食卓にちらかした不満を

       <ちいさな 形而上学の脚をふまえて>

神さま

あなたのあてずっぽおの深みへ












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えぴそおど [勝野睦人遺稿詩集]



   えぴそおど

       ーー又は“peg”


 「死」は一本の釘である。

 それをわれわれの背中に打込んだ男は、むろん神に違いあるまい。

かれはわれわれの背中の板の厚さをーー即ちわれわれの肉体から、

精神までの隔りを測った。いうまでもなく、ぞんざいな自分量を用

いて……。つまりその距離の闇間に、こっそりこの錆びた「悪意」

を埋めてやろうとしたのだ。

 ところでかれは誤ってしまった。かれが買いこんできた釘という

釘は、悉くながすぎたようである。かれは困った。ぼりぼりと、五

分頭を掻いて考えこんだ。そこで思いついた方法は、これを、は

すかいに打込むことだ。いささかに注意を用いさえすれば、この程

度の仕事はかれには容易と思えた。(大工とは、元来ふかい因縁の

あるこの男は)口に数本の「悪意」を含んで、鼻唄まじりに仕事を

進めていたが……。



 やがて、空腹をもよおし、細工が乱れた。それに板の厚さは、か

れが考えていたよりよほどまちまちだった。肉体の表層から精神

が、うすく透けてみえる奴さえあった。かれは腹をたてて垂直に槌

をふるった。槌に加った癇癪は、「運命」の重力となってそのまま、

 その男の背筋をたたいた。もはや自明の理(ことわり)であるが、「死」は、

雄然とかれのこころに突き出た。しかるに、その屋根裏部屋(マンサル)のよう

なこころのかたえに、いつしか寝起きを繰り返していた詩人は、お

どろき、目を覚まし、

そして唄った。



 「死」は私のベットの脇に

 突然うまれた帽子掛けです

 けれども神様

 私は終生無帽のやから

 私は終生無帽のやから

    あそこにお掛けしようにも

    「信仰」のシャッポは持ち合わせていません

















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CONVERSATION(三篇) [勝野睦人遺稿詩集]



   CONVERSATION(三篇)


   草叢


わたくしに

言葉を投げてくださるのでしたら

わたくしの居ない方角へ

できるだけとおく投げてください

そうして さらにできることなら

そのままさりげなくお立ち去りください

でなければ せめてもの目を伏せられて

見てみぬしぐさをなさってください



ーー言葉のとんだ草叢を わたくしが

捜しあてようとしてきょときょとするのを

   (そのさまはまるであなたの尨犬(プードル)のようです)



やがて わたくしは走り去ります

けれどももつれた足取りで

「答」を拾って帰ってきましょう



   坂道


わたくしの 「笑」の車輪は

           てぎわよく

ころがったためしがございません

あなたの おはなしの中途には

きまって傾斜がございますのに

坂道が こっそり仕掛けてございますのに

          そのうえを

いつでもわたくしはみにくくすべって

きまずげな 轍をのこしてしもうのです



わたくしの 「笑」の車軸は

どこにさびついているでしょうか……



   空地


「沈黙」は露路裏の空地です

ふいに 踏みこんだふたりでしたら

うつむいて 外套のえりもたてます

おたがいの靴音をきづかいながら

そしらぬ面持で ぬけでようともしますが



けっきょくは

どのような「言葉」を通りぬけても

おなじ空地が ひらけるだけだと

おなじ夕焼を もてあますだけだと

読みとってしまったふたりにとっては

「沈黙」はてじかな公園です



ふたりはこのんで迷いこみ

めいめいの 遊動円木をさがします












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部屋 [勝野睦人遺稿詩集]




     部屋


ふかい眠りにおちいってしまうと

かれはちいさい部屋になるのだ

時間は粉雪のようにその回りをさまよい

ときよりとざされた小窓を叩く

丁度ひとりの友人が

ふとかれの肩に手でもかけるように……

すると 静まりかえっていたかたのなかで

誰かが寝がえりを打つけはいがきこえる

裸電灯の眼が一瞬しばたき

食卓に据えた灰皿から吸いさしがころがる

ーーそのように かれの眠りの底へも

なにかがころげおちてゆく物音がきこえる……



やがておもい扉が軋み

ひとりの男があらわれる

くろい外套を羽織った顔のない男が

そうして ああ かれにつづいて

無数の人影が戸口にたつのだ

鍔のひろい帽子をかぶり 紙屑や木の葉をまとって



それからなにがなされるのか

とおく柱時計の咳がきこえる

いまかれの意識を

踏みつけて通りすぎて行くおぼただしい靴音

テーブルがはげしくゆさぶられ

追憶が契約のようにとりかわされる

おおきな状差の影が壁からぬすまれ

しきりに封書が読みかわされ

床が鳴り 地球儀がまわり

あちこちで沈黙が皿のように砕ける



ときとして だが母親は耳にする

息子の夢のなかのなにかあわただしいけはいをーー

彼女はとぼしい明りを手にして

ながい階段をのぼってくるが

かれはひっそりとしたやはりひとつの部屋だ

そのかたすみに

ちいさな夢の鍵穴をみつけて

そっと彼女はのぞきこむ

そうして いま

かれの眠りの一角に

赤いランプの火が揺れているのを見ると

安堵の踵をかえしてゆくのだ



        ☆



翌朝はやくかれは目覚める

すると かれのこころの底に

数枚の木の葉がちっている

いぶかしそうにかれはそれを手にして

その日も 学校へ出かけてゆく













タグ:部屋
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わたしはひとつの……… [勝野睦人遺稿詩集]




   わたしはひとつの………


わたしはひとつの落想でしょうか

あなたの手帖にかきとめられた

みしらぬ「運命」のための控でしょうか

「運命」が ふいにはばたいた折

つばさからこぼれおちたなにかのかなしみ

その ちいさなちいさなしみでしょうか

それともあなたのお顔のすみに

いつからかうまれでていた黒子でしょうか

  わたしの出生をあなたはくやみ

  正直にはもてあましてさえおいでの御様子

  ああ それならば なぜ

  なぜ あなたは

  わたしを投げすててはしまわないのです

  てのひらにのせた小銭のように

  そうして忘れていた契約のように

  わたしを「死」と ふいに

  とりかわすのです












 
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目覚めの少女 [勝野睦人遺稿詩集]



   目覚めの少女


ねむりはふかいふかい庭隅の井戸

わたしはその庭のちいさな桶だ

夕暮が軋むつるべを手にして

わたしのゆめをいまねむりから汲みとる

ぬれたわたしの肢体から

一滴のそのしずくもこぼさぬようにと

すこしづつ 入念にわたしの意識をたぐる



あわただしくたそがれの内壁をすべって

よいやみのほとりに顔(おもて)をあげると

わたしのはずれにとおい灯がうるむ

そのともしびのゆらめきで

わたしがまだ かすかに寝息をたてているのがわかる



やがていろいろなものどもが

つぎつぎとまわりに馳けよってくる

すいかずらの影 沈丁花のかおり かすかな蜜蜂の羽音

橅の木はいつかかがみこんでしまう

わたしの「放心」に呼びとめられてーー

                  そしていまなみなみと

わたしの肢体にたたえられて

この庭をすっかり呑みつくしたこころに

息をころしてみいっているのだ

……………………………………

ごらん こんなものがおまえの底にひかっていたよと

空のうすあかりがふとつまみあげてみせる

それはみおぼえのない宝石のような小石

わたしがねむっているうちに

だれかわたしのなかに投げこんでいった物音……















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鐘楼 [勝野睦人遺稿詩集]




   鐘楼


「哀しみ」は

だれの裡にも

鐘楼のようにそびえています

あるひとは

とおくそれを仰いだだけで

さかしく瞳をそらします

また あるひとは

こころのおもわぬ方角に

その姿が ふいにたちはだかるのに驚き

ひそかに小首をかしげます

けれども もっとべつなひとは

その周囲をせわしくめぐりつづけています

車輪が車軸にこだわるように

言葉が言葉の意味をまさぐるように

そうしてはてしないその目眩(めくるめ)きのうちに

ついには すべてを見失ないます



ああ しかし

もっともっとべつなひとは

はじめから知り尽くしているのです

こころが ちいさな町でしかないのを

そしてたちどまった街角にはいつでも

ひとつの鐘楼がそびえたつのを



かれは「哀しみ」をのぼりつめてゆきます

どこまでもひたむきにのぼりつめてゆきます

その頂にたどりつき

かれのこころを見渡してみようと

こころのただひとつしかない厳しい位置に

せめてものあのちいさな叫びが

吊されているのをたしかめてみようと












タグ:鐘楼
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