グラスに注ごうとする私のこころは [勝野睦人遺稿詩集]
グラスに注ごうとする私のこころは
グラスに注ごうとする私のこころは
けれども 食卓を濡らすばかりなのでした
おずおずと 水差しの口をつたって
奇形な言葉の雫をしたたらすばかりなのでした
グラスに注ごうとする私のこころは
それほど 波立っていたのでしょうか
食卓には あなたの夢が読みさしのまま
無造作に投げだされてあるのでしたが
そのうえに 言葉は インク液のように
あお黒いしみとなって広がるばかりなのでした
グラスを差しだしたあなたの手は
グラスを握りしめていたあなたの指は
それほど おののいていたのでしょうか
それとも 或る日の不幸から
ふと 私が未来をとりおとした折
水差しの口を欠いてしまったのでは……
× ×
透明な あなたのリキュール・グラスに
ともあれこころは注ごうとしつづけ
そうして 食卓を濡らすばかりなのでした
ーーこころは 水平でなければ耐えられないので
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