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えぴそおど [勝野睦人遺稿詩集]



   えぴそおど

       ーー又は“peg”


 「死」は一本の釘である。

 それをわれわれの背中に打込んだ男は、むろん神に違いあるまい。

かれはわれわれの背中の板の厚さをーー即ちわれわれの肉体から、

精神までの隔りを測った。いうまでもなく、ぞんざいな自分量を用

いて……。つまりその距離の闇間に、こっそりこの錆びた「悪意」

を埋めてやろうとしたのだ。

 ところでかれは誤ってしまった。かれが買いこんできた釘という

釘は、悉くながすぎたようである。かれは困った。ぼりぼりと、五

分頭を掻いて考えこんだ。そこで思いついた方法は、これを、は

すかいに打込むことだ。いささかに注意を用いさえすれば、この程

度の仕事はかれには容易と思えた。(大工とは、元来ふかい因縁の

あるこの男は)口に数本の「悪意」を含んで、鼻唄まじりに仕事を

進めていたが……。



 やがて、空腹をもよおし、細工が乱れた。それに板の厚さは、か

れが考えていたよりよほどまちまちだった。肉体の表層から精神

が、うすく透けてみえる奴さえあった。かれは腹をたてて垂直に槌

をふるった。槌に加った癇癪は、「運命」の重力となってそのまま、

 その男の背筋をたたいた。もはや自明の理(ことわり)であるが、「死」は、

雄然とかれのこころに突き出た。しかるに、その屋根裏部屋(マンサル)のよう

なこころのかたえに、いつしか寝起きを繰り返していた詩人は、お

どろき、目を覚まし、

そして唄った。



 「死」は私のベットの脇に

 突然うまれた帽子掛けです

 けれども神様

 私は終生無帽のやから

 私は終生無帽のやから

    あそこにお掛けしようにも

    「信仰」のシャッポは持ち合わせていません

















タグ:えぴそおど
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