津崎由紀あて [勝野睦人書簡集]
(津崎由紀あて)
先達てはお手紙ありがとう。今夜は固苦しい話は少しひかえ
て、育チャンの噂ばなしでもしましょう。実は一昨日、彼氏の宅で
十一時過ぎまでお喋りしたばかりーー彼氏の切り札はまず純粋詩、
それからバルザック、アラン、小林秀雄……。僕の方はウエイドレ
とユングと高野喜久雄……。間に河野女史が割って入って、まった
く騒然たるものでした。
彼氏のお喋りの上での最大の美点は、うまく喋ろうとしないこと
です。わざとらしくツジツマを合わせたりなど、決してしないーー
だから時に話題がそれたり、論理の飛躍があったりしますが、それ
が又実に彼氏らしい魅力と、新鮮さとにみちてます。多少逆説的
な言い方をすれば、彼氏は最大の話し上手かもしれない。だがどう
贔屓目にみても、聞き上手ではないようです……。
ところでおたずねの件ですが、あれは又、いつか詳しく説明しま
しょう。ただ僕の着想の端緒を述べれば、比喩ーー特にメタフォア
は、「生」を遮断する性格があること、その性格に生命力の「過剰」
な詩人は、耐えられないこと、その二つです。では、又
31・11・18
コメント 0