久保田広志あて 32・1・17 (その2) [勝野睦人書簡集]
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初等科になると今度はフランス語で教える。クラスにはフランス
人の教師のつくのと、日本人のとがあるが、無論とるなら前者にす
べきだ。僕はレダンジェというマダムに習った。背の低い、鼻筋の
とおった、やせぎすの、疳高い声の持ち主。ちょっと鳶を思い浮か
べて困るが、仲仲の美人だ。゛Attendez!”(待って)を連発する癖
あり。教科書は初等和訳科と同じものを使う。しかもやっぱりA・
B・Cから。だが、ここでは発音が主なのだ。特にレダンジェ女史
は発音がうるさい。en、an、un、on、といった鼻母音の練習ーーこ
れが一時間続く。蓄膿症になりそうだ。しかし、授業はともかくと
して、フランス人にじかに接することが出来るのはうれしい。僕な
んかその為に通ったようなものだ。外人は実に身軽だ。そして僕達
より動作のテンポが数倍もはやい。あれなら、椅子や机の上に飛び
上ってもおかしくはない。ところが日本人の教師がそんなことをし
たらーーきみ、考えてみたまえ。あの宮沢氏やダルマが……それこ
そ笑い事でさえなくなるだろう。
それにもうひとつ。だれがなんといったって、彼女は海を渡って
きたのだ。渡り鳥のように。ーそう思うと不思議な感動を覚える。
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まあこういったところでカンベンしてくれ。はなはだゾンザイな
手紙で恐縮だけれど。
なお、規則書を同封しておく。サヨウナラ
32・1・17
2015-05-04 19:06
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